暮らし

子供の頃よく見たテレビドラマには、自分が暮らす世界とはかけ離れた世界が広がっていた。同い年くらいの男の子が、素敵な制服をきて、おしゃれな自転車に乗って、河川敷を走っている。例えばそんな世界。


ああ、学校帰りに河川敷があれば良いのに…と、何度自分の置かれている環境と比べたことだろうか。


そして次の日には、何の自然もない、ただの東京郊外の街を歩いて学校に行くのだ。

自分の「暮らし」と、ドラマの中の「暮らし」に、その「差」と言うべきか「違」と言うべきか、何かしらの尊さを感じてしまうのは大人になった今でも同じである。


「現実」と「理想」


僕は幼少期、詳しく言うと18歳の時東京から出るまで、なぜか知らないけど「僕はきっと幸せになれない」と思っていた。ずっと思っていた。今思うとすごく不思議なことだけれど、別に自分を特別悲観していたわけでもなく、僕が幸せになることはないと、そう思っていた。


今なら、そんなことないと思える。僕には幸せになる権利があって、その可能性があって、逆に言えば、自分次第では全く幸せじゃない人生を送ることも出来る。大人になったから。


だからこそ、たまに「幸せって何だ?」と、ありがちな質問を自分に投げかけている。自分にとっては、何が幸せなのか。幸せになれる可能性があるとわかってから、僕は幸せとは何かと考えるようになった。これをすると嬉しい、これをすると悲しい、というのは自分でも分かっている。でも、幸せというのは、もう少し複雑な気がしているのだ。悲しいことが嬉しいことに変わることがあるし、嬉しいことが悲しいことに変わることもある。幸せは、偏屈だ。


今日、ある短編映画を見ていた時、河川敷を自転車で走る高校生の姿があった。

久しぶりに見た河川敷。


これだ。と思った。


河川敷に幸せがあるのではなく、「暮らし」の中に幸せがあるのだと、やっとわかった。




僕は、「幸せな暮らし」がしたいだけだった。


「幸せな暮らし」とは、例えば毎朝好きなカフェに行ってコーヒーを飲んだり、海まで散歩をしてみたり、風が気持ちよく吹く公園で読書をしてみたり、雰囲気の良いレストランで食事をしたり、仲の良い友達と美味しい居酒屋でお酒を飲んだり、好きな服を着たり、写真を撮ったり、好きな車を運転したり、意外とそんなもんだったりする。


そういう「幸せな暮らし」の質を上げていくことに、人生の「幸せ」はあるのではないだろうか。


例えば正直、今幸せですか?と言われたら、そうでもない。それは客観的な意見や、謙虚な気持ちを除いた僕の正直な気持ちだ。


アルゼンチンでは、家も綺麗ではないし、気の知れた友人もいなければ、お風呂にも入れない。ご飯はいつも同じだし、日本語の本屋もない。僕の部屋には収納もない。キッチンは汚くて使う気にならない。


でも


僕は今26歳という年齢になって、初めて「暮らし」を劇的に変えたことで、いかに自分にとって「暮らし」が重要なのか気付くことができた。僕はその学びに、すでに非常に満足している。ここに来なければ、一生わからずに死んでしまっていたと思う。



「幸せな暮らし」を"し続ける"には、少しばかりの努力が必要だったりする。あとは勇気とか、そんなものも必要だったりする。僕の場合、その「幸せの暮らし」の中には、サッカーという刺激物が必要みたいで、どうやら僕はそれを左右する人間にもなりたいみたいだ。でもそれは、「幸せな暮らし」の中にあるもので、それが孤立して存在することは、きっとない。


例えば僕がサッカーという刺激物を求めるために、自分が好きじゃない街に住んで、人が好きじゃない人たちと暮らして、汚い家で、カフェにもいけず、本も読めず、そんな暮らしをするとは思えない。する必要がないんだ。


僕はわかった。「暮らし」を求めたい。一生かけて。


多分それは日本で暮らすことで、自分の好きな街に暮らすことで、サッカーを仕事にすることで、好きな人と人生を送ることで、好きなものや、好きなことをしていくことなんだと思う。実はそれは、そんなに難しいことではなかったりする。


「あなたにとって、幸せな暮らしとはなんですか?」


その答えは多分、みんなわかっている。それは意外と手に入るものだったりするから(河川敷とかね、河川敷の近くに住めばいい)。多分「幸せな暮らし」を送るためにお金があって、その逆じゃない。


「幸せな暮らし」を送っていると、多分仕事やら、恋愛やら、なんやらうまくいくんじゃないだろうかと、僕は確信に近い何かを感じているところだ。心が豊かじゃないと、何もかも失ってしまう。


僕は自分にとっての「幸せな暮らし」を再確認するために、早く日本に帰りたい。それが分かれば、また新しい気持ちでアルゼンチンに戻って来れる気がするから。




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