拝啓 本田圭佑様

初めまして。河内一馬と申します。

サッカー指導者をしております25歳です。

かねてより、本田圭佑様に申し上げたいことがございましたので、お手紙を書かせていただきます。


指導者について

サッカーというスポーツにおいて「指導者」という存在がいかに重要か、という議論はすでに完結しており、ここで改めて議題に出すものではないかと思います。答えは当然、重要です。もちろん「指導者を養成する」ということに対して国を挙げて取り組んでいかなければならないことも、異論の余地はありません。今回は、日本という国が、「指導者養成」に関して世界に劣っているということを前提にして、話を進めさせていただければと思います。少しの間ですので、お付き合いください。なぜ数多くいる中で本田圭佑様あなたなのか、それは読み進めて頂ければわかることかと思います。


なぜ指導者が育たないのか?

私が思う主な原因として、以下の点が挙げられます。

  1. JFAのライセンス制度
  2. 若い指導者に野心がない
  3. 個性的で魅力的な日本人監督がいない
  4. 支援組織・企業が存在しない

一つ一つ、説明をしてきたいと思います。


JFAのライセンス制度

まず、1つ目の「JFAのライセンス制度」に関してです。

日本にはJFAが行っているライセンス制度が存在します。そして、Jリーグで監督をするには日本の「S級ライセンス」を取得しなければなりません。これに関して異論はありませんが、私はこれが、本来の意味を失っているように思えてなりません。本来はライセンスという階級を設けることによって、各指導者のレベルをあげるとともに、その指導者の信頼を可視化し、プロフェッショナルの指導者を育てるということが主な目的だと思います。しかし今、それは正しく運営されているでしょうか?

日本のS級ライセンスを取得するためには、「多くのお金」と「多くの人脈」が必要になることかと思います。今最も若いライセンス取得者は36歳です。それも当然、この2つの必須条件を満たすには、ある程度の年齢でなければ非常に難しい、ほぼ不可能という事実があります。「難しいのは当然」という方もいらっしゃることかと思いますが、果たしてこれは正しい難しさなのでしょうか?私は、この「お金」と「人脈」という制約がある限り、日本の指導者が伸びることはないと断言します。

私たち指導者は「お金」と「人脈」ではなく、「実力」で判断をされなけばなりません。どう考えても「若いうちに」取得ができないライセンス制度では、「下が上を脅かす」という、発展のためには必要不可欠な状況を作り出すことができません。

この制約があってか、プロの監督を本気で目指していない「元プロ」や、人脈のある実力の伴わない人間にライセンスが与えられ、S級ライセンスというものの存在価値が、不安定になっています。


若い指導者に野心がない

そこに波及して、2つ目の「若い指導者に野心がない」という問題が発生しています。もし仮に、S級ライセンスが20代でも実力次第で取得可能なのであれば、若い指導者は当然ライセンスを取得し、上を脅かしにいきます。私のようにプロの監督を目指している人間にとって、S級ライセンスを取得するまでは、その土俵にすら乗ることができません。野心を持って上を食いに行け・・・と言えども、S級ライセンスの「順番待ち」で歳をとり、次第に野心が薄れていきます。僕の同世代である「若い指導者」は、この事実にすら気づいていない人がほとんどなのではないでしょうか?「人脈」という名の「コネ」の中で完結してしてまうのは、日本人の悪い癖です。

若い人間に野心がない状態で、日本は世界のサッカーに太刀打ちできるでしょうか?


個性的で魅力的な日本人監督がいない

この現状のせいでしょうか?日本人監督には、強烈なインパクトを持った監督が存在しません。これが3つ目の「個性的で魅力的な日本人監督がいない」という問題に波及しています。ヨーロッパや南米には、強烈な個性を持った監督が多く存在します。個性、それは「野心」という基盤があり形成されるものです。彼らのような選手と同等、もしくはそれ以上の存在感を持った監督が出てこなければ、若い人間や子供が憧れを持って監督を目指すような環境は生まれません。本田圭佑様のような、子供に憧れを持たれる、強烈な個性、キャラクターが日本人監督の世界にも必要なのです。でなければ、監督を目指す人の母数が増えませんから。


支援組織・企業が存在しない

そして、何より問題の原点は「支援組織・企業が存在しない」ということです。

日本人は「指導者養成が大切」という問題を提示するのにも関わらず、それに対して実際に行動をする人間、組織が存在していないのです。日本人は、選手やチームにしか支援の手を伸ばさず、この問題に対してはアプローチをしません。ただ、それが可能な人はいるはずです。そう、本田圭佑様です。あなたがこんなことを発言していたのを思い出します。


「必要最低限のルールテストで合格すればS級を渡すべきで、その方が絶対にサッカー界にとって有益なんです。そもそも指導法に正解なんてないんですから。1人では何も変えられないので皆でルールを変えましょうよ」

いよいよ、これに関して動く時がきました。私と全く同じ考えです。

では、どのようなアクションを起こして頂きたいか、次に述べていきたいと思います。


日本から出し、日本に戻す

今日本がしなければならないのは、若い指導者を海外に出すことだと考えます。海外にある、本物のサッカーを見なければ、日本人が世界を超えることはないですから。そして、大事なポイントは、海外に出した人間が、「必ず日本に戻る」ということです。海外でサッカーを学んだところで、日本に還元をしなければ意味がありません。いくら自分の理論や海外の理論を、ツイッターや雑誌等で披露したところで、大した還元にはなりません。そうではなく、日本人が海外で学び、そして日本人が日本人に還元をすることが大切なのです。そのもっとも大きな還元が、「日本で結果を出す」ということです。それはわかりやすくいえば、日本のプロリーグで監督になり、そこで結果を出すということです。日本人の信頼を得るには、日本で結果を出す必要があります。

若い指導者を日本から出し、そして日本に戻す。普段から海外に行くことの重要性を説いている本田圭佑様ですから、これに関して異論はないと思います。

僕らが40代50代になって、今の方法のまま指導者を育てようとしても不可能なのです。その時になって慌て始めても遅い、そう思いませんか?


海外から人を招く癖

なぜ僕が上記したことを強調したいのか、それは日本人の考え方にあります。

日本人が「海外から学ぶ」というと、必ず海外から日本に人を招きます。これはサッカー界に限ったことではないのかもしれません。例えば、サッカー日本代表の監督が外国人なのは(日本人が候補にすら上がらないのは)これが原因ですし、Jリーグで巨額のお金を払って外国人を招くもの、JFAがNIKEと契約をして外国人を招くのも、日本の海外のクラブを母体としたサッカースクールで外国人が指導をしているのも、すべてこの考え方が原因だと思います。もうその方法は、日本サッカーには通用しません。

なぜなら、サッカーという、「文化が大きく反映されるスポーツ」において、外国人は日本人のことが理解できないからです。外国人が外国の方法でそのまま日本人に還元したところで、ほぼ意味がないと思います。「文化」とは歴史背景や、宗教のことを指しますが、このことに触れてしまうと莫大な文字数になってしまうので、ここでは割愛させていただきます。本田圭佑様、あなたならお分かりかと思います。

日本人が海外に出て、日本に戻り、日本人が日本人の方法で還元しなければならないのです。そしてそれは、若い人間にしかできないことなのです。


海外のライセンスで土俵に乗る

本題に入ります。

今私が実行しようとしていることは、海外のプロライセンスを取得し、そのプロライセンスでJリーグの監督を目指すということです。

僕が議論を起こしたいのはここです。JFAのホームページでは、以下のような記述があります。


『Jリーグのトップチームの監督は、S級コーチライセンスを保有していなければなりません。または、S級コーチライセンスと同等以上の資格を有している必要があります。』


"S級ライセンスと同等以上の資格"という基準に対して、日本では積極的な議論が起きていません。おそらくこれは外国人指導者に対しての対応だと思いますが、日本人もS級ライセンスに相当する、もしくはそれ以上の価値のある(FIFA認定)資格を持っている人は存在します。それはどうなのでしょうか?私は、ここに議論の余地があるかと思います。


アルゼンチン

お金も人脈も日本ほど必要のない国の1つが、アルゼンチンです。最速2年でFIFA公認のATFA(アルゼンチンサッカー技術協会)のプロライセンスが取得できます。そのライセンスを取得し、そして日本に帰国し、日本で最年少監督を目指します。おそらくですが、以下のような意見が飛び交うと思います。

「2年で取得したライセンスが日本のS級と同等のわけがないだろう」

「FIFAに公認されているのだから、日本でしか使えないライセンスよりも価値がある」

私は、この議論を起こすことに意味があると考えます。私が批判されようが賞賛されようが関係はありません。議論を起こすことが大切なのです。もしこのグレーな部分をグレーにしたままでは、優秀な若い指導者が日本サッカー界に出てくる可能性は0です。


ライセンス制度を見直す

もし、前述したことが実現し、日本で監督をすることが認められた場合、より多くの若い人間が海外に出るかと思います。日本でS級ライセンスを取得するよりも早く、土俵に乗ることができるのですから。そうすると、日本のS級ライセンスも改善が必要になってきます。取得する人数が減ってしまいますから。そしてS級ライセンスの価値が落ちかねない。だからこそ、前例が必要なのです。


指導者養成改革

長々と前置きをしてしまいましたが、このようなことを実行するには支援を受けることが必要です。日本という島国から海外に行くということは、他のヨーロッパの国々とは前提が違うということを理解しなければなりません。若い人間一人の力では到底…

そこで、本田圭佑様、あなたのような考えをお持ちで、影響力があり、財力があり、指導者養成改革を起こせるのは世界にあなたしかいません。これまでもチーム作ったり、買ったり、投資をしたり、日本サッカーのために多くのことをしていただいていることかと思います。

ただ、指導者を育てなければ、日本のサッカーが発展することはありません。良い選手がいても、良い指導者がいなければ、何もかも意味がないのです。


僕ら若い指導者は今、軽視されすぎています。

100mを10秒で走れる能力があるのに、「じっくり時間をかけて、秩序を保ち、大人に従い、20秒で走りなさい。そうすればいつかあなた方の時代が来ます」と、そう言われているのです。「若い時は勉強をしろ、とにかく勉強をしろ」と。


本田圭佑様、あなたが動き出し、支援をしてくださることを心から願っております。

敬具


河内一馬



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