PANAAD STADIUM -Bacolod, Philippine
フィリピン・バコロドは、サッカーが盛んではない。現地の人に話を聞くと、フィリピンでスポーツといえばバスケットボールが一番に挙げられ、ボクシングやバレーボールが後に続く。レストランではNBAの映像が流れ、少年が楽しそうにストリートでプレーするのは、決まってバスケットボールである。現地の人にサッカーの話をすると「90分長いよ」と決まっていうけれど、全然わかってないと声を大にして言いたくなる。というか、言う。
そんな街で唯一サッカーを感じることができるのが、ここPanaad Stadiumだ。
フィリピンの交通手段であるジプニーを乗り継ぎ、隣に座るおじさんの何語だがわからない話を聞きながら、僕はPanaad Stadiumに辿り着いた。おじさんは、なぜそんな場所に行くのかを尋ね、そしてそこには何もないということを教えてくれようとしていたのかもしれない。おじさん、僕は今着くのかどうかもわからない乗り物に乗っているんだから、そんな余裕はないんだ。
収容人数15,500人の小さなスタジアムは、大きな公園の中にある。その存在感の薄さは、まるで住む人がいなくなった古民家のようだ。普段は現地人の憩いの場になっていて、ごく稀にサッカーの試合が行われたり、お祭りが行われたりするというのは、現地の人から聞いた話だ。こんなところで試合なんて出来るの?と疑いそうになるが、ついこの前はACLの国際試合が行われ、かつてはU-16日本代表もここで試合をしている。らしい。
スタジアムの中といえば、それはまさに公園だった。スタンドのある、公園。サッカーのスタジアムであるということは、おそらく誰も思っていない。自由に入ることができるスタンドとピッチには、タンクトップを着たおじさん、ギターを弾く青年、音楽を聞きながら話すカップル、そして友達と写真を撮り合う女の子がいた。見るからに日本人である僕は、ここにいる間中、物珍しそうにジロジロ見られ続けることになる。
ピッチの周りには白いロープが張られ、中に入ることはきっと許されていないのだけれど、おしゃれな写真をあげることに命をかけている今時女子に、白いロープは見えていない。
スタジアムの外では、少年少女たちがそれは見事にサッカー以外のスポーツを楽しんでいた。バスケットボール、ダンス、スケートボード、自転車…。インテルのユニフォームを身にまとい、唯一サッカーを感じさせたこの少年は「インテル好きなの?」と聞いた僕に対して微笑みをくれたけど、あの感じ、多分インテル知らないんだろうな。
Panaad Stadiumはサッカーが盛んじゃないこの街を、象徴しているような場所だった。いつかまた、今度は試合があるときに、ここに来たいと思う。この街にも、サッカーの面白さがわかる時はくるのだろうか。来てほしいと願う。そしたらこのスタジアムも、ちょっとは報われるんじゃないだろうか。
帰り道、どのジプニーに乗ったらいいかわからない僕を優しく案内してくれたおっちゃんと、「ダウンタウン行く?」って聞いたら満面の笑みで「ダウンタウン!」と返してくれた運転手のおかげで、僕は無事、帰ることができた。行くかどうか聞いたんだけど。
なんだか懐かしいような感覚をくれて、静かでゆっくりとした時間を過ごさせてもらったから、帰りのジプニーで一緒に乗り合わせた子供たちに「アンニョーン!」ってからかわれたことは、許そうと思う。もう何人とか、どうでもいいや。
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