今日も頭に水が降ってくる
今日も頭に水が降ってくる。
アルゼンチン・ブエノスアイレスは、「南米のパリ」と呼ばれている。あながち間違ってはいないけど、合ってもいない。紛れもなくここは「南米のアルゼンチン」である。
ブエノスアイレスの中心地に行くと、それこそ欧米のような街並みが時より顔を出すんだけど、地面は凸凹で、工事中(雑)の道が多くて、地面の石が剥がれているのは当たり前。そして何より、頭に水が降ってくる。
地面が濡れている場所を通る時は要注意(と言ってもほぼ濡れている)で、タイミングが悪いと頭に水が降ってくる。なんの水なのかはわからない。
日本人の友達が紹介してくれた女の子は、「ミラ」というアルゼンチン人だ。
僕はミラと出かけた1日で、アルゼンチン人の文化を一気に体験することになる。
「日本人はいつもon timeなのは知ってるわ。でもこっちでは少し違うの」と事前にメールで言いながらもしっかり時間通りにきてくれたミラは、僕を見るなり可愛いらしい表情でハグをしてくれた。ハグは、いい。
まず行ったのはコロン劇場。20分くらいのツアーに参加したんだけど、もちろんすべてスペイン語で何もわからない。ミラが英語で通訳してくれたんだけど、それも難しい単語が多くて概ねわからなかったのは彼女には秘密だ。「スペイン語でごめんね」と気を使ってくれた彼女に僕は、「Just feel」というブルースリー顔負けのセリフを言ってやった。劇場は感じるものだ。
ミラの友達を紹介してくれるという。
待ち合わせのゲストハウスに行くと、どうやら前に働いていた場所のようで、元同僚の男の子と女の子とスーパーなテンションでほっぺをくっつけに行く。日本人とは全然違うなあと改めて思う。
のちにきたミラの友達は、ほんの少しふくよかな体型をした、なんとも愛くるしい女の子だった。
とにかくこっちの人は甘党である。
パン屋さんにも甘い菓子パンしか置いてないし、お菓子も全部甘い。
御多分に洩れず甘党なミラと友達は、これでもかというくらい甘いお菓子とパンを買って、これから公園に行ってお茶をするみたいだ。
バスがこない。待っても待ってもこない。
こっちでバスを乗りこなすのには40年くらいかかるんじゃないかと思うくらい、難しい。バス停も(びっくりするくらい)わかりづらいし、もちろん時刻表はないし、降りるタイミングもわからない。
「なんかバスこないっぽいよ?」みたいなこと言いに来てくれた女性がいて、そこからタクシーに切り替えた。日本だったら文句の一つでも言いそうだけど、彼女たちは全く気にしない。
すべてのお金を、ミラと友達が出してくれた。
「今日あなたは招待券を持ってるから」なんていうおしゃれな言い回しで、僕が財布を出すのを止めてくれる。ありがとうと泣きそうになってると、「東京で同じことが起きたらあなたが奢ってあげて」と、彼女はさらっと言う。
なんですか、かっこいいじゃないですか。
公園では、いろんな話をした。
ミラの友達は歴史が好きで、アルゼンチンの歴史をたくさん教えてくれた。幽霊の話から、日本の話まで、本当にたくさんの話をした。スラングを教え合って笑い転げるのは、どこの国でも一緒らしい。
アルゼンチンでは、マテ茶を回し飲みする。みんなマテ茶専用のコップ?というかカップというかを持っていて、専用のストローが付属している。箱から茶を出してコップに入れて、そこにお湯を入れて飲んだ。「出た、マテ茶」みたいなリアクションをしたらミラは笑ってて、そのあと英語でジョークを言ってたっぽいんだけど、よくわからなかったから一緒に笑っておいた。
僕がマテ茶をストローでかき混ぜようとしたり、苦そうな顔をすると笑ってくれた。
こっちにいると、地下鉄とか、公園とか、あらゆる場所で何かを売っている人と出会う。簡単なペン類とか、髪を結ぶゴムとか、靴下とか。
3人で話している時も男の子がやってきて、女性用の靴下を見せてきた。スペイン語だったから何言ってるのかはわからなかったけど、どうやら彼女たちを説得しているらしい。
日本で物乞いがいないのは「貧しくないから」だと勝手に思い込んでいたけど、そうではないのだと思う。何かの本で読んだ時、ああ確かになあと思った。日本で物乞いをしても、お金をくれる人なんてほとんどいない。それは僕らが決して冷たいからではなくて、多分、目立つことを嫌がったり、他人からの目を気にしてしまうからなのかもしれない。だから地下鉄でものを売ろうとする人もいないし、道端で物乞いをする人もいない。
こっちでは、買ってくれる人がいる。靴下を勧められた友達は、「しょうがないわね」といった感じでピンクの靴下を買ってあげていた。「私ピンクの靴下が大好きなの、ほら見て今日もはいてるでしょ」とか、「私はいつもピンクの靴下ばかり買うから家に数十枚溜まってる」とか笑いながら、ものすごく優しい顔をしている。ついでに僕らが食べていた甘い菓子パンの残りを全部あげた。
日本ではあまり考えられないことだけど、なぜだか、ものすごく心が暖かくなった。
頭に水が降ってきた。
どうやら今度は、本当の雨みたいだ。日本で雨が降ってきたら嫌な気持ちになるけど、その時は「雨もいいなあ」なんて思ったりもした。
ゆっくり、本当にゆっくり、来た道を歩きながら僕が泊まる宿の前まで送り届けてくれた。
2人に出会えたおかげで、これからアルゼンチンでなんとかやっていける気がしたよ。
アルゼンチンでは、今日も頭に水が降ってくる。
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